人気ブログランキング | 話題のタグを見る

八話   無垢なる形代   12

「人か・・人じゃないか・・それって・・意味ある・・?」
「ない」
少なくともこの場においては意味がない。目の前のものを叩き斬るだけなのだから。流れる血を止めるため、自らの服を切り裂き、止血にときつく縛る。
女は歌うように、しかし変わらない姿で。
「私はね・・人間じゃない・・・わよ」
でもどうだっていい話、と彼女は声音だけで笑った。確かにどうだっていいのだ。目的は。
「お前を倒す、事だったな」
抜き身を二回振って、再び構える。そして、そのまま地面を蹴った。
「そう・・油断しないで・・」
女の背後に回り、一閃。彼女はそれを避け、何か伸びる刃物でロジェを斬り付けた。
「動き・・鈍い・・ね・・・痛い・・?」
「黙れ」
一言。それ以外に発する言葉はない。しかし、彼女はまだ話し続ける。
「痛みは・・私・・分から・・ない。でもね・・・」
「あの・・人は、貴方・・の精神を傷つ・・けよと・・言ったわ・・」
だからなんだというのか。
「だから・・私、考えた・・」
ふふふ・・と不気味な声を響かせて。
「あの・・連れの人を殺せば・・貴方は傷つくの・・じゃないかしら・・?」
何がロジェを動かしたのかは分からない。ただ、今までのロジェとは違うことは明らかだった。正面から目にも留まらぬ速さで、ロジェは、其の女の首を叩ききったのだった。
骨に引っかかることはない。一直線に刃物は滑った。ごとり、と首が、体が崩れ落ちる。
彼女の中は空洞だった。人でない。そう人形のようである。大きな等身大の喋るマネキン。
彼女は首だけになっても喋る。
「うふ・・私達は・・山と居るわよ・・。創造主から作り出される・・ですもの」
「・・黙れ」
「こう・・している間にも・・彼女は・・死に近づ・・く・・わ」
「黙れ!!」
どすっ、と彼女の落ちた顔に刃を突き立てた。破損する音のみが響き、それ以後喋ることはなかった。
「くそっ!!」
珍しくロジェは悪態を吐く。そして、その場に蹲った。出血が思ったよりも酷すぎる。
奴らの狙いはロジェを殺すことではなかったのだ。ロジェの精神を破壊すること。
それは、似ているようで大きく違う。前者はロジェ個人の問題だが、後者は間違いなくフィーリにその矛先が向かうことになる。向かう刺客は一人ではないかもしれない。
「頼む。何事もないで居てくれ・・」

by vrougev | 2006-10-28 02:12 | きらきら☆まじしゃん【休止中】