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八話   無垢なる形代   14

目の前が霞み始めるのは死に近づいている証拠である。
昔、自分か師匠と呼べる男にそう教わった。それが、どのくらい前だったかと言われると困る。どのくらい前だっただろうか。ただ覚えているのはまだ自分が幼すぎたこと。それによって全てを失ったこと。
「無様だな・・」
歩くのがやっとの状態でふらふらとロジェは進む。向かうのは隣国。
全くもって馬鹿だと自分で思う。何故狙っているものは複数いると考えなかったか。既にフィーリの存在は知られているのに逃がしたか。激化する交戦の中に交えたくなかった。己の争いだから。なるべくならば知って欲しくはない。でも、それよりも最も酷いのは、
一人孤独に死んでいくこと。路頭で一人見知った顔が息絶えている姿を想像し、ロジェは自らの失態を呪った。
「間に合うか・・・間に合え・・」

「どーこーにーいーるーのーぉ!?」
「この街のどこからしいですけどねぇ・・」
日が傾き、夕暮れも近い。帰路に着くため多くの人が往来する。そんな中朝同様にベンチに座ったフィーリはぐったりとした様子で天を仰いだ。その横ではカセドラルがあははと乾いた笑いを漏らし、ふぅと一息ついた。
「今日大半はくまなく探したんですが・・何処に一体あるんでしょう」
「どっかの後ろじゃない?何かの後ろ盾がないとそんなの街の人に気づかれそうなもんでしょ」
疲れのためか少々言葉に毒が混じるフィーリ。そんなことに気がつかない聖職者は「明日は裏を探って見ましょうか」と返す。「そうだね」と心在らずな返事をしたフィーリはすくっと立って一言だけ告げた。
「散歩、してくるね。直ぐ戻るからー」
返事も聞かず人ごみの中市街地へと再び足を向ける。朝とは違う活気に溢れている。夜の団欒に備えるための活気。それは誰かを迎えるために、共に在るために備える準備だ。
フィーリは当てもなくふらふらと進んでいく。目指すものはない。ただ歩きたいから歩くのだ。誰かといると気が気ではなかった。何故自分が此処にいるのかを考えると矢張りと留まらなければならないのだけれども。しかし、けれども。
歩くうちに市街地を抜けた。少しばかりダウンタウンの様な町並みに変わる。性質の悪そうな男達が迷い込んできたフィーリの方を睨みつけた。此処では旅人はいいカモなのだろう。一瞬にやりと笑った男はいちゃもん付けたがりそうにこちらに向かってくる。
いつもなら余裕で色仕掛け♪とくだらないことをやるフィーリであるが、今日は違った。
地を踏みしめる足にぐっと力を込めた。何か口ずさむ。それは呪文だったのかもしれない。
次の一歩をフィーリは空に置いた。それは重力によって落ちることなく、見えない階段を上っているかのように空を歩いた。
ちらりと下を振り返ると、腰を抜かした男が地面にへたり込んでいた。
そのまま上へと上って行き、街全体が見渡せる高さで伸びをする。街中は既にぽつぽつと明りが灯り始めていた。穏やかな活力が此処にまで伝わってきそうだ。一つの場所を除いては。
それは入国審査の門前。多くの人が集まり、なんだかんだと騒いでいるようだった。
「なんだろう。いってみよーっと」
急いで空の階段を駆け下りていく。その先に在るモノは驚き。

by vrougev | 2006-11-05 21:19 | きらきら☆まじしゃん【休止中】