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八話   無垢なる形代   16

フィーリを見失い、一人宿に戻ったカセドラルは扉を開けた途端、異界を見た気がした。
「あー♪おかっえりー、カセドラルぅー♪」
随分前に帰ったのだろうか、フィーリはすっかりご機嫌な様子で笑っていた。
問題なのは、その格好である。それは、真っ白だった。いや、違う。白にライン。体の線にぴったりと張り付くように作られている服はどう見ても普段着ではない。
「フィーリ様・・どうして、ナース服なんですか・・?」
「やっだなぁ♪カセドラルってばぁ♪これは、アメリカンナースだってばぁ」
何故そんな格好を・・と尋ねようとしたカセドラルはベッドに一人の男の姿を見た。
黒ではない、燻銀の瞳。頭や体には包帯が巻かれていて、怪我人だということは直ぐに分かる。彼が、ロジェ=ミラ=クレセント。初めて会った人物なのだが、何故か懐かしく感じた。
「ロー君♪カセドラルが買ってきたパン食べよー♪」
「あぁ、すまない。ありがとう」
「んっもう!!ロー君、あんま無茶しちゃダメだからねー?」
ロジェの瞳はぼんやりとしているが、ただただフィーリにだけ注がれていた。
「ロー君、あーん♪」
「・・馬鹿」
フィーリはパンを小さくちぎると、ロジェの口へと運ぼうとする。そんなフィーリからパンを引ったくるロジェの口元には笑み。満更でもなさそうである。カセドラルはその空気に戸惑い、考える。こういうのはなんと言うのだったか。
「遅かったな、カセドラル」
「あ・・飛鳥様」
いつの間にかこちらに来ていたらしい地の支柱は、くくくっと楽しそうに笑った。
「バカップルの空気に毒されるなよ」
あぁ、そうか。バカップルか。自分には縁がない言葉だ。
「わざわざご心配ありがとうございます。ところで・・」
何故、飛鳥様はこちらに?と尋ねようとしたが、その質問は飛鳥によって制止される。
「俺だけじゃない。CIRCLEが動いている」
その言葉でカセドラルは驚いたように眼を見開いた。支柱が全員動く自体とはどの様なものなのだろうか。それは興味でもあり、恐怖でもあった。
「それは・・どの様な・・」
「さぁな」
飛鳥はどうだっていいかのように呟き、煙草に火を点けた。一筋の煙がゆっくりと立ち上っているのをカセドラルは無意識に目で追う。
「必ずボロがでるはずだ」
「え?」
「時を見逃すな、いいな」
真剣な眼差しの先には剣士。カセドラルには全く分からないことだったのだが。

by vrougev | 2006-11-15 01:44 | きらきら☆まじしゃん【休止中】