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番外編   突撃!!新夫の晩御飯!!   前編

「今日はねっ、僕が晩御飯を作るねっ♪」
ある日の夜だった。いつも通り野宿先で、いつもは手伝いなど一切しない魔術師は嬉々としながらエプロンを取り出しながら言った。
「やめてくれ」
世にも恐ろしい発言をきっぱりと断ったロジェはフィーリの方を向くことなくテキパキと晩御飯の支度を始める。彼にとっては慣れたものだ。フィーリとひょんな出会いで旅を始めてから今までずっと炊事係はロジェの担当である。生きるため必要だと元々身に付けていたものが癖となるのに時間は掛からない。一人では気楽に作ったりなんだりとしていたが、気がつけば細やかにやるようになってしまった。今晩は何をしようかと手持ちの食材で考えるのも日常の一コマとなっている。
今日手元に在るモノは卵とトマト、米。調味料は置いておくとしても大分少ない。これと非常食用の乾物があるだけだ。次の街なり、国なりに着くまで後三日は掛かるだろう。
食料は大切に扱わなければならない。
「ねー、ロー君ってばぁ・・」
背を向けて一人考えているロジェの背からフィーリは腕を伸ばすとそのままロジェにもたれかかる様に抱きつく。これもまた慣れた様子で引き剥がしながらロジェは尋ねた。
「フィーリ、今晩何が食べたい」
「んー、オムライスがいいなぁー♪・・・じゃなくって!!」
「何だ」
眉を顰めたロジェからフィーリはロジェの持っていたフライパンを引っ手繰った。
「僕が作るの!!」
「・・何を」
一瞬困ったように視線を左右に彷徨わせたフィーリは「うーん」と考えるように天を見上げた。空にはもう星が輝いている。そして暫くして出た答えが。
「・・・・オムライ・・ス?」
難しくはない。トマトソースで飯を炒め、上から卵をかけるだけだ。大した技術も必要ないし、少しばかり食に興味を持った人間ならば作ることは十分可能だろう。きちんとした職人が作ったものは美味しいに決まっているが、素人が作ったものもこの手のものは美味しかったりするのである。それを家庭の味と呼ぶらしいが、ロジェは良く分からない。
「じゃぁ、作ってみろ。食べてやるから」
「ほんとっ!?わぁいロー君、大好き♪」
ロジェは甘い。自分ではそう思っていないようだが周りから見れば誰よりも他人に優しく、そして特にこの女男の魔術師に弱い事が良く分かるであろう。そしてその甘さ故に、災難を引き寄せるのだ。
「因みに、料理経験は?」
「一回もないよー♪」
えへへー、とフライパンを振り回しながら笑うフィーリを見て、ロジェはこのときやっと事の重大さに気がついた。やばい。これはまずいかもしれない。
「フィーリ、やっぱり俺が・・」
「んもぅっ!ロー君は休んでてっ♪ねっ?」
にっこりと眩しいばかりの笑みはロジェから見たら完全に死の宣告と同等のものだ。いや、死神はまだその姿で危険を知らせてくれるからまだましか。何をするかだって分かったものだ。フィーリの場合、表情からどんな非常識な事をしているかなど分からない(本人はそれが常識だと思っているからだ)し、それを本気で、全力で成し遂げようとするから恐ろしすぎる。この魔術師は完全に普通と言う枠から外れているのだ。
「河・・行ってくる・・」
既に異を唱える気すら失せている。唱えたところで何も始まらないを嫌と言うほど知っているからだ。とりあえず、今晩の食料を確保しなければいけない。魚の塩焼きでも食べられないよりは大分マシである。いや、かなり・・か。
「いってらっしゃーい♪」
元凶は鬱なロジェの背中に向かって元気よく手を振った。漏れるのはため息ばかり。

この後、ロジェは全ての事に無心を心掛けた。
何かあったような金切り声や黒かったり白かったり紅かったりする煙、焦げた臭いとはまた別の異臭が漂って来たが、ロジェは必死に何も見なかった事にした。
何も見てない、何も聞いてない、何も感じない。
そう、思っていなければやっていられないのも事実だったが。

by vrougev | 2006-11-23 09:37 | きらきら☆まじしゃん【休止中】