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八話   無垢なる形代   24

暗い。これを暗いと言うのですか。私には分かりません。
怖い。そんな感情私にはありません。痛い。それは楽しい事ですか?
私の仕事は遊ぶ事。あのお方のために遊ぶ。あのお方のためならどんな遊びもしましょう。
そのために生み出されたのだから。それが存在理由だから。

深い森。針葉樹林の緑が耐えることの無い森。街から遠く離れた此処は騒ぎも届かない。あるのは大自然の静けさと闇の恐怖か。ロジェ達は飛鳥の案内の元、此処にたどり着いたのだ。フィーリがたまたま地図で見つけた小さな一軒家があったところでもある。
「飛鳥ーぁ?此処なんでしょー?」
「家なんて・・ないな」
何処を見渡してもそんなものはないし、在るのは聳え立つ木々ばかりだ。何処かで梟が鳴いている。月は分厚い雲で覆われており、灯りなんて届く事もない。探す二人を横目で見ながら飛鳥は木にもたれ掛かり、微笑んでいる。
「そうだ、今此処に家なんて無い。隠されているんだからな」
そういって飛鳥はなにやら唱えるとすっと腕を振り下ろした。びぃん、という音と共にそこに空間が出来る。闇がぽっかりと口を空けた様な姿だったが、それはだんだんと姿を現す。飛鳥の笑みが深まる。
「実際に見るのは俺も初めてだな」
ずずず、と何かが迫るような音。現われたのは巨大な鉄の塊。鉄の家だ。僅かな光が鈍い光沢があることを教えてくれる。飛び出たパイプ。突き出た煙突。めり込んだ何か。明らかに普通でない何かであるのは確かだった。
「・・・凄いな」
ロジェの感想に飛鳥は小さく「だな」と呟いた。
「あぁ、そっかー♪『木の葉を隠すなら森の中』って奴だね?やっぱり飛鳥凄いっ♪」
コレの何処が木の葉なのだろうか。第一合っているのは此処が森だという事だけである。突っ込みたい衝動をぐっと堪えて、ロジェは隠れて拳を握った。
「フィーリ、コレがなんだか分かるか?」
飛鳥の問いにフィーリは少し困ったように答える。
「うーん・・何って特定が出来ないなぁ・・・魔術師の家?でも、それにしては大所帯だし・・数十人・・もっとが住んでる?」
「こんな家に大所帯?どう見てもそこまで住んでいる気配は無いだろう。多くて四人ぐらいか?」
建物自体は大きいのだが、外から見ても分かる通り、鉄やパイプやで人が住むという空間は少なさそうである。どちらかといえば一昔前の工場、というモノに似ている。
「でも、凄いいっぱい気配はあるんだよ?なんていうの?こう、もやもやーっとした・・」
ロジェにはそんな気配は感じない。首を捻るばかりである。
「魔力、だ」
飛鳥はそう言って、手短なところに垂れていた飛び出たパイプに手を掛けた。
「魔術師は魔力で人の気配を感じる。誰一人として同じ魔力を持つ存在なんていないからな」
いるとしたら、と飛鳥は続けた。手に力を込めて。
「それは造り物だ」
言葉と共にパイプを思いっきり引っこ抜いた。ぷしゅっという小気味いい音と共に白い煙が空へと昇っていく。建物の中からは聞き慣れない金属音。
「造り物に必要なモノは」
ざくっ、と今度はめり込んでいたコードと思われるものを懐から取り出したナイフで切断した。躊躇いなくこなして行く破壊作業。
「造り手と製造場所だ」

by vrougev | 2007-01-08 03:21 | きらきら☆まじしゃん【休止中】