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八話   無垢なる形代   26

中に灯りは存在しなかった。飛鳥が開いた空間のようにただ先の見えない闇が広がるばかり。いや、終わりはあるのだ。この時、終わりは二つの瞳。
「やっと・・来た・・・んだ」
声音には覚えがあった。ロジェを襲った女と同じもの。感情が無い声音すらも一緒。
「待ちくたびれ・・たぁ」
「お前が、創造主か」
尋ねたのはフィーリでも飛鳥でもなく、ロジェだった。
「創造主・・・か。素敵・・な響きね」
くすり、と笑い声。それは確かに女のものなのだが何か別なもののように聞こえる。
「そうね・・貴方が創造主と呼ぶなら・・ば私は創造主なのかも・・・」
この女はこの場、俺達を見ながら別なものを見ている。遠くにあるナニカ。そのナニカが何だかなんて分からないけれども。暗闇で唯一分かる瞳は虚空を映していた。
「僕とロー君を襲ったのは貴女の作った人形でしょ?目的は何?」
「あぁ、女の子・・・生きてい・・たの?」
生きていようがいまいがどうだっていいといった様子の女は見向きもしないで虚空を見つめている。
「もう一度問う。目的は何だ」
改めてロジェが問うと女はきゅっと目を細めた。笑っているのか。それとも。
「ロジェ・・・貴方は分か・・らないのね。残念だ・・わ」
「何?」
改めて問おうとしたロジェは飛鳥に制される。
「お前は人形師のドーラ。間違いないな」
「貴方・・誰・・・?」
かたり、と音がした。飛鳥はその言葉を同意と受け取ったのかにこりと口先だけで笑む。
「挨拶が遅れたな、ドーラ。俺はCIRCLEが一人」
「CIRCLE!?」
突然弾かれたように大声を上げた女は信じられないという口調である。それほどまでにCIRCLEという存在は恐ろしいものなのだろうか。目の前の反応といい、以前のカセドラルの反応といいロジェには怯える理由が分からない。
存在を知っているようで何よりだ、と飛鳥は余裕ありげに呟いた。
「何を使ったか知らないが、他人から無許可で魔力を奪い取るのは禁止されている事位知っているよな。しかもそれを使って魔導人形の製造。奪った魔力からして半端ない数のはずだ。どの事実をとっても犯罪者。それに、お前はもう一つ罪を犯しているはずだ」
微笑む顔はいつもと同じにしか見えない。だが、横に立つフィーリも顔に張り付いた笑みを見せ、ロジェの腕を強く握った。
「飛鳥・・マジで切れてる?」
恐る恐るといった様子で飛鳥に尋ねるフィーリに飛鳥は答える。
「まさか。俺は其処まで心が狭くないさ」
実に爽やかな笑顔だった。例えるなら青空、白い雲。あぁ、なるほど。ロジェは思う。
コレは怖い。怖いを通り越して恐ろしい。得体の知れない何かが見える。
「お前を捕まえたって意味が無いのは知っている。知りたいのは元締めだ」
「え、上がいるの!?」
「捕まえたって意味が無いって・・どういう事だ」
知らない事ばかりだ。何も教えてもらっていない。自らの事のはずなのにどうも外野の気がしてならないのは気のせいだろうか。
「説明は面倒だから後でする。しかし・・そろそろやばいか・・」
「「何が」」
フィーリと声が重なった。何が起こるというのだろうか。飛鳥が答える前に不気味な呟きと聞き慣れない金属音がロジェの耳へと届いた。
「CIRCLE。最上級危険レベル。排除。排除。排除・・・・・・」
かたかたかた、と小刻みに揺れる音は目の前の女から感じるのは殺気。ロジェは鞘から剣を抜いた。
「フィーリ、契約はまだ有効のはずだな」
「え?あ、うん」
思い出したように切り出した飛鳥は「討伐を頼む」と言い、踵を返した。
「討伐?捕獲じゃないの?」
「いや、討伐だ」
振り返る事無く飛鳥は言い放つ。
「壊れたキカイは元に戻す術がないからな」

by vrougev | 2007-01-08 19:29 | きらきら☆まじしゃん【休止中】