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九話   RUN AWAY!!   4

「すっごーい・・おっきい芋虫ぃー」
「これが動くの・・か?」
巨大な魔導車両を見た一言目の感想である。車輪がつけられているということからこれが動くためにあるということは分かるのだが本当に動くのだろうかと言う疑問が浮かぶ。車両の下には光沢のある鈍色が一直線に何処までも引かれていた。何のためのものであろうか。目を丸くした二人にベルナールがざっと解説をいれる。
「そう、これが人を乗せて動くのよ。最大三百人強収容可能、クーヴァンの都市と都市、徒歩だと一週間掛かるところを二日で繋ぐらしいわ・・と言っても本当かどうかは知らないけれど」
口振りからするとベルナールは信じていない様だ。
「魔導車両って言うからには動力源は魔力って事かなぁ?」
フィーリは先程の不機嫌は何処へやら。爛々と目を輝かせているのが分かる。
「だと思う。僅かな反応が二つ」
「今は僅かって感じだねー」
「凄い凄い!!どんな式使ってるんだろうっ♪本当に動くのかなぁー?」
漆黒の金属は日の光を浴びて輝いている。期待の眼差しを向けるフィーリは無邪気な子供のようにはしゃぎ始めた。
「此処まで巨大なモノを動かすって事は相当な力を必要とするはずだよっ!!と、すると連鎖式かなっ♪煙突がついているってことは発火式のものだよね。すると、ええと・・」
「楽しそうですな、要の皇子」
突然背後から掛かった低い男の声にロジェは驚き、ローブの下で身構えた。声を掛けられるまで存在に気がつかなかったのだ。男もまたローブを纏っている。魔術師か。フィーリの知り合いだろうかとフィーリの方を窺うと困惑した表情の愛想笑いと目が合った。
困ったような視線を向けられても困る。ロジェにはさぁ、と肩をすくめる事しか出来ない。
「御機嫌よう。クーヴァン国第一級宮廷魔術師、ムモーリー=ラーヴィー」
一瞬で猫を被ったベルナールは優雅に裾を摘んで会釈した。双子も揃ってお辞儀をする。ムモーリーと呼ばれた魔術師は自らの短く揃えられた琥珀色の髪を照れた様に撫でた。
「これはこれは、ベルナール=シリア=フリフ女王。ご機嫌麗しく存じます。こんな下っ端の名前覚えていらっしゃってくださったとは・・このムモーリー、光栄で御座います」
「あら、貴方ほど優秀な魔術師はクーヴァン国にはいらっしゃらないとお聞きしますわ。今回の魔導車両も貴方が総指揮を取られましたとか」
「指揮と言っても指示を出しただけです。凄いのは彼らであり、私は何一つしていません」
「まぁ、ご謙遜を」
うふふ、あははと言う上品な中に含みが隠れた笑みを二人は漏らす。フードを取らず顔を隠したベルナールの瞳は笑っていなかった。なるほど、表情を隠すとはこういうことか。
ムモーリーに見える口元だけをにっこりと微笑ませたままベルナールはフィーリとロジェにムモーリーを紹介した。簡単な説明と特徴を告げられたムモーリーは「ははは」と愉快に笑った後よろしくと丁寧なお辞儀をした。
「あの魔導車両はどうやって動くの?」
挨拶そっちのけで興味津々とばかりに訊ねるフィーリにムモーリーは可笑しそうに笑う。
「秘密ですよ、皇子」

by vrougev | 2007-03-08 00:27 | きらきら☆まじしゃん【休止中】