「よし」
黒いジャケットと黒いパンツに動きにくい暗色のローブ。フードを目深に被りロジェは呟いた。同様の姿のフィーリは口だけでにっと笑いブイサインを見せる。
「こっちもおっけぃー♪」
横には着ぐるみを下着以外全て剥がされたなんとも情けない二人の男が縄で縛られていた。縄の端をアクトとレストが仲良く持って遊んでいる。きゃっきゃと上げる声音は可愛らしいが敵の顔に落書きして遊んでいるところから来る声音なのは見なかったことにする。
「じゃ、行ってくるねー♪」
「「いってらっしゃい」」
場違いな明るい声音で手を振り、送られる。ほのぼのとしている光景かもしれないが此処は敵の領域な訳である。なにがあるか分かったもんじゃない。廊下でも聞こえる子供達のはしゃぎ声に少々不安を覚えながら二人は進む。
扉、扉のくぼみ以外には隠れる場所の無い真っ直ぐな通路からは人の気配は一切しなかった。しんと静まり返った中、足音のみが響く。
やがて見えたのはつい先程までロジェがいた食堂。なにやら人声がする。
誰か、なんていわなくても分かる。敵に決まっているからだ。
気を引き締め、姿勢を正す。あそこに人質はいるのだろうか。
「あくまで潜入だが気を抜くなよ」
何かあった後では遅いのだと自分に言い聞かせ、ローブの上から刀を掴む。
「ロー君こそ、へましない様にね♪」
にっこりと微笑んだフィーリにロジェは「あぁ」と返し扉を叩いた。
こん、こん、こん、と乾いた音の後に中から偉そうな声が響く。
「入れ」
二人は顔を見合わせて僅かに口元に笑みを浮かべる。
「「はい」」
同刻、残された双子も顔を見合わせていた。ひそひそと小さな声で呟く。
「行った?」
「行ったな」
無邪気な笑みを浮かべるレストにアクトは頷き、人前では見せぬ穏やかな表情で笑う。
「じゃ、呼ばなくちゃだねー」
「だな」
その微笑みは悪戯を企む子供の顔で。二人は片手を繋ぎ、目を閉じて。
「我等が主の主、地の支柱。その姿此処に現れよ、その心此処に留まれよ」
「我等が主の主、大地の王。その姿ここに現れよ、その心此処に留まれよ」
魔力により浮く髪は白銀と黒曜石色で。閉じられた目はゆっくりと開かれる。
「俺の名はアクト。創造されし対なる双の黒」
「僕の名はレスト。創造されし対なる双の白」
謳うように紡がれる詠唱。お揃いの瑪瑙の瞳は楽しそうにらんらんと輝かせていた。
「「要を支える大地の支柱。全ての父なる大地の王。我らの前に姿現せたまえ」」
それは、召喚の術式。